沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。
「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つける)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。
本記事では、「コワーキングスペースの世界市況」をテーマとして行われたセッションの様子をお届けします。
コワーキングスペースの国内外比較と、地域差が示す課題
初日一発目のプログラムで、会場は満席となった。
FLC Fesの初日に開催された当セッション。前半では、世界のコワーキングスペース市場を調査しているDeskmag社のCarsten Foertsch氏による世界市場のレビューが行われ、後半では、JCCO代表理事でFLC Fes実行委員長の青木 雄太氏と、The DECK株式会社代表取締役、Beyond The Community代表の森澤 友和氏を交えたディスカッションが行われました。
日本で初めてのプレゼンテーションだというCarsten氏。同氏は、コワーキングスペースの国際的なアンケート調査を行い、その知見を共有するためにWebマガジン「Deskmag」を立ち上げた経緯があります。今回の講演では、日本のコワーキングスペースの現状と、世界の動向との比較を中心に話を展開しました。24年度の調査ではアンケートに対して351件の回答が集まり、そのうち84件が日本のコワーキングスペースのものでした。調査は2025年1月10日まで実施されたため、新年のデータも含まれています。
Deskmag社のCarsten Foertsch氏。
「まず、最新の調査データを基に、日本のコワーキングスペースの現状を説明します。運営者へのアンケート結果によると、53%が『現在のビジネス状況は良好』と回答し、29%が『満足』と回答。そして18%が『悪い』と回答しています。これは世界の平均と大きくは変わりませんが、日本国内においては地域差が大きい点が特徴的です。人口100万人以上の都市では『良好』とする運営者が多い一方で、地方では苦戦する傾向があるようです。」
これは世界でも同様に見られる現象だそうで、日本では特に地方のコワーキングスペースの認知度が低いことが影響しているのではないかと氏は話します。また、コワーキングスペースが抱える最大の課題として、『新規メンバーの獲得』が挙げられました。これは日本だけでなく世界的にも共通する課題ですが、日本では特に優先順位が高く、その割合が高いといいます。
氏はさらに次のように続けます。
「中小都市や地域集落におけるコワーキングスペースでは、ビジネスモデルの理解不足、市場需要の不足、空間内の社会的な雰囲気の欠如が、より高い割合で報告されています。特に市場需要の不足と社会的な雰囲気の欠如は人口減少の影響を受けやすく、特に人口密度の低い地域ではその影響がより早く、より深刻に現れる傾向があると考えられます。」
他国と比べて興味深いのは、日本の小規模な都市や町にあるコワーキングスペースが、社交的な雰囲気が非常に欠けていると自ら報告している点です。
翻訳アプリを使用し、氏の話に耳を傾ける参加者たち。
さらに発表は続き、Carsten氏はコワーキングスペース運営者なら誰もが頭を悩ませている「収益化」の課題についても以下のように言及。世界との比較だけではなく、国内での都市と地域に見られる傾向について示しました。
「コワーキングスペースの収益については、収益を上げているのが42%、21%不採算、残りは損益分岐点にあるというデータが出ています。収益モデルについては、日本ではフリーデスクが中心であるのに対し、世界では個室の提供が主要な収益源となっています。また、イベントスペースの需要が高いのも日本の特徴の一つで、地方の傾向は顕著です。人々が集まる場所が少ないため、コワーキングスペースがその役割を果たしているのでしょう」。
コワーキングスペース運営者の描く未来像
これまで集めたデータについて、一つひとつ丁寧に考察や背景を語るCarsten氏。
コワーキングスペース運営者が考えている今後の展望について、Carsten氏は運営者の意識調査のデータを提示。59%が今後6か月で業績が向上すると予想しており、利用料金の値上げを予定する運営者は約半数にのぼります。また、新規スタッフの雇用を計画する運営者が約3分の1となっており、「この予測は世界平均より若干控えめですが、日本の文化的背景も影響している可能性があります。日本では過度に楽観的な予測を避ける傾向があるように思います」と背景について推測を述べました。
また、日本のコワーキングスペースの運営形態の特徴として、「適度な利益を目指す運営者が多い」点を挙げました。
「日本では、コワーキングスペース運営者の25%が『最大限の利益追求』を目標としており、40%が 『適度な利益を目指す』と回答。8%は赤字でも構わないと考えているようです。コワーキングスペースの運営において、単に利益を求めるのではなく社会的な影響を考えた運営を重視しているためでしょう。日本のコワーキングスペースは、諸外国と比べて地域活性化やコミュニティの支援を目的とするケースが多いのが特徴です」。
さらに、日本のコワーキングスペース運営者には「人々の職場を改善する」という意識が低い点についても触れ、「これは他国と比べて非常に興味深い違いです。この理由について、日本の皆さんの意見を聞いてみたいですね」と、会場に問いかけました。
発表では定量的な指標が数多く出てくるため、記録しようとする参加者の姿が見られた。
Carsten氏の講演では、日本のコワーキングスペースの現状と課題、そして未来について、多くの示唆が得られました。最後に氏は、「コワーキングスペースの本質は、単なるデスクやコーヒーの提供ではなく、そこに集まる人々の関係性や文化に依存しています。これからのコワーキングスペースは、より多様な利用者のニーズに応える形で進化していくのかもしれません。その変化を追いながら、また新たなデータが発表されることを楽しみにしたいです」と展望を語り、発表を締めくくりました。
コワーキングスペースの未来と収益化の可能性
ディスカッションパートでは青木氏と森澤氏が登壇。
Carsten氏の発表に引き続き、プログラムは後半のディスカッションパートへ。「それでは、この調査結果についてディスカッションを始めたいと思います」とモデレーターの青木氏の呼びかけとともに、会場が期待感に包まれました。
森澤氏は、関西エリアのコワーキングスペース運営者としての立場から「コワーキングスペースの収益化」について話題を投げかけます。
The DECK株式会社代表取締役でBeyond the Community代表の森澤 友和氏。
「日本においては、小規模なコワーキングスペースの多くが収益化に苦戦しています。私の考えとしては、収益はメンバーシップ料金だけに依存すべきではありません。観光業やメイカースペースなどの新しいビジネス分野との連携が重要になると考えます」。
森澤氏の話にCarsten氏は共感を示し、「小規模なコワーキングスペースでは提供できるサービスが限られがち。地域ごとに異なるニーズを捉え、最適なビジネスモデルを模索することが大切だ」と応えました。
ディスカッションの最後では、青木氏からの投げかけにより、日本市場におけるコワーキングスペースの将来について意見が交わされます。
両者の話に真剣に耳を傾ける青木氏。
「日本のコワーキングスペース市場は、今まさに大きな転換期を迎えていると思います。今後の成長の鍵となるのは、単なるワークスペースではなく、強いコミュニティを持ち、収益性のあるビジネスモデルを確立すること。コワーキングスペースが収益性を高めれば、コミュニティマネージャーの待遇改善にもつながります。そうすることでより良い人材が集まり、持続可能な成長が可能になります」。
また、Carsten氏も「パンデミックを経て、コワーキングスペースの需要は今後さらに高まると確信しています。ビジネスの多様化を進め、地域ごとの特性を活かした戦略を取ることが重要です」と述べました。
日本のコワーキングスペースが抱える課題と、それを乗り越えるためのヒントが共有された当セッション。ここで交わされた議論を起点とし、FLC Fesの各セッションが始まりました。