沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。
「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つめる)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。
本記事では、FLC Fesを支えてくださったアンバサダーとスポンサーの皆様によるセッションの様子をお届けします。
沖縄・コザの地に全国から集まったコワーキング関係者たち。その中心には、FLC Fesを応援するアンバサダーたちの存在がありました。本セッションの冒頭では、彼らがそれぞれの視点からFLC Fesの魅力を語り、コワーキング業界の未来に期待を寄せました。
最初に登壇したのは、株式会社HOA代表取締役であり、コワーキングカンファレンスジャパンの主催者でもある岡 秀樹氏です。岡氏はイベント全体の印象についてこう語りました。
「FLC Fesは本当に素晴らしいイベントで、おもてなしもネットワークもすごいなと思いました。日本のコワーキング業界はまだ10数年の若い分野ですが、その中心には常にコミュニティマネージャーがいます。彼らの価値を可視化・体系化することが、この業界の発展に不可欠だと思っています」
さらに岡氏は、FLC Fesの第2回開催を熱望し、「皆さん共に盛り上げていきましょう」と力強く呼びかけました。
続いてマイクを握ったのは、Future Studio株式会社代表取締役の岡 浩平氏。技術スタッフとして裏方支援を担いながら、イベントの雰囲気に感銘を受けたと話します。
「コワーキングをキーワードに、これほど多様な業界の人が集まるイベントはあまり無かったと思います。今回はバリエーションが一番広いと感じました。東京でも関西でもなく、沖縄だからこそ皆が来たいと思った。僕はそれがとても嬉しいです」
岡氏は、兄である秀樹氏とともに業界を支える存在であり、イベント後の交流にも期待を寄せていました。
続いて登壇したのは、岡山から参加した株式会社スイッチ代表取締役の恒次 明弘氏。8年目を迎える「Thinkcamp」を運営しており、地域発の情報発信にも力を入れています。
「今回青木さんから声をかけていただいて、とてもありがたく思っています。僕も青木さんと同じ気持ちで、コワーキングの枠組みを広げたいと活動してきました。次回もぜひ開催してほしいですね」
恒次氏の発言からは、地域に根ざした活動が全国に広がっていく未来地図を感じました。
続いて登場したのは、EBILAB取締役ファウンダーCTO/CSの常盤木 龍治氏。世界700〜800か所のコワーキングスペースを巡ったという常盤木氏は、その視点からFLC Fesを高く評価します。
「日本で、利用者や提供者だけでなく、街を作る人、教育を担う人が一堂に会するイベントが実現しているのは嬉しいことです。沖縄の人々に恩返しがしたくて移住した私にとって、こうした場が生まれているのは本当に感慨深いです」
沖縄に根差し、地域再生に取り組んできた背景をもとに、イベントの持つ意義を熱く語る姿が印象的でした。
最後に登壇したのは、多摩美術大学教授の佐藤 達郎氏。広告業界出身でありながら、近年は地方移住やコワーキングスペースの研究にも力を入れています。
「長野県にある森のオフィスというコワーキングスペースに行ったとき、コワーキングスペースが移住者のハブになっていると感じました。昨年はポルトガルのスペースもいくつか見学し、これからもこの分野を研究していきたいと思っています」
佐藤氏は、今後も広告学会や文化人類学会などを通じて知見を発表していく意欲を語り、FLC Fesの今後に大きな期待を寄せました。
アンバサダーたちのコメントからは、単なるイベント参加者ではなく、共にこの場を育てていくという強い意志がにじみ出ていました。FLC Fesという越境の場が、彼らの声によって一層深みを増していくことを感じさせる時間となりました。
FLC Fesのスポンサーセッションでは、資金面からFLC Fesを支える各企業が、地域や社会にどう貢献し、共に未来を創ろうとしているのかを語る場となりました。本章では、ソーシャルデータバンク株式会社とSALTO WECO-SYSTEMの2社の取り組みを紹介します。
最初に登壇したのは、ダイヤモンドスポンサーであるソーシャルデータバンク株式会社のインターン生である本村 太一氏。慶應義塾大学に通う現役学生でもある本村氏は、同社の「学生インターン中心の開発組織」の取り組みを紹介しました。
「弊社は、プログラミング未経験でも“何か作ってみたい”という学生に学びの場を提供しています。、架空のプロジェクトではなく、実案件の開発・運用に向き合う経験を積んでもらうことで、本物の力を育てています」
学生インターンは30名近く在籍し、その大半が慶應生。オフィスは大学近くに構えられ、インターン生が学校帰りに立ち寄り、活発に開発に取り組む姿が見られるといいます。
「学生が主体となってマラソン大会の出場者管理システムを開発したり、会議室予約システムを作ったりしています。社員に頼らず、学生だけでプロダクトを生み出す。その裁量の大きさがインターン生のやる気を引き出しているんです」
未経験からのスタートを歓迎し、学生自身が教育コンテンツやメンタリング体制を整えていく仕組みこそ同社の強み。会社にとっては、本業とは別に“次の芽”を育てる土壌にもなっているといいます。
「会社の本業とは切り離して、学生が試行錯誤できる環境を整えることで、新しいプロジェクトの種をまけるんです。結果としてインターンからの採用にもつながっていて、会社にとっても大きな意味があります」
地域の学生が主役となる挑戦の場を企業が全力で支える。その構造こそが、持続可能な地域エコシステムの実現に近づく鍵なのかもしれません。
続いて登壇したのは、SALTO WECO-SYSTEMのChristian Schmitz氏。グローバルに展開するアクセス管理ソリューション企業であり、スペインを拠点に世界中のコワーキングスペースや教育機関にプロダクトを提供しています。
「私たちは“アクセスの力”を信じています。より多くの人が、より多くの体験にアクセスできるようにすること。それが、より持続可能でつながりある未来をつくると考えています」
セッション中に紹介された動画では、柔軟性やコミュニティの重要性を軸とした価値観が示されました。Christian氏は続けてこう語ります。
「今や“未来の働き方”は劇的に変化しています。企業の従業員がコワーキングを利用する時代です。コワーキングはもはやフリーランサーだけのものではない。私たちは、これからの時代に適応するための“正しい方程式”を、共に模索していきたいのです」
“スマートアクセス”という観点から、テクノロジーを活用して建物や都市をより柔軟な空間へと進化させる取り組みも紹介されました。その根底にあるのは、「ネットワークこそがオフィス」という考え方です。
「オフィスは場所ではありません。人と人が出会い、共に過ごし、価値を生み出す“ネットワーク”そのものです」
SALTOは製品の導入先に制限を設けず、ユーザーの理想に合わせた柔軟なアクセス管理を追求しています。それはまさに、コミュニティの多様性に寄り添う姿勢の表れでもあります。
「変革の力は、コミュニティが本当に大切にしているものを発見したときに最大化される」。Christian氏が最後に引用した言葉は、この日のセッション全体を象徴するメッセージでもありました。
FLC Fesスポンサーセッションの後半では、「地域をどうつなぐか」「場にどう関わるか」という視点から2つの事例が紹介されました。沖縄リゾートワーケーション推進協議会と、さくらインターネット株式会社。それぞれ異なる立場から、コワーキングやエコシステムの可能性を語りました。
登壇したのは、沖縄観光コンベンションビューロの一事業として設立された沖縄リゾートワーケーション推進協議会の柴崎 貴史氏です。
「我々は、沖縄に長期で滞在しながら仕事ができる“ワーケーション”を推進しています。その中でも、コミュニティマネージャーの役割は非常に重要です」
現在、約40団体が会員として登録しており、会費不要でワーケーションに関わる企業・個人とのネットワークを形成しています。柴崎氏は「コミュニティマネージャーとの接点がもっと必要だ」と強調し、今後の研修事業への期待感を述べました。
「我々のコミュニティから今回のコミュニティマネージャー研修事業に参加している企業は、決して多くありませんでした。今後はもっと多くの皆さんに参加していただきたいです。今日は実際に研修に参加した南西食品さんに、参加後の振り返りを発表していただきます」
南西食品を代表して登壇したのは、howlive(ハウリブ)名護宮里店を運営する比嘉 志穂里氏です。同社は元々食品卸業や宅配事業を展開していましたが、事務所拡張の必要性から、同ビル内にコワーキングスペースを設置したといいます。
「開放的な空間で、琉球畳やゆったりとしたソファ、ハイテーブルも備えています。FMやんばるや沖縄タイムスといった地元のメディア企業も入居し、地域と情報をつなぐ拠点となっています」
67年の歴史と地元企業としての信頼を持つ同社は、これからの課題として「新規進出企業と地元企業のつなぎ手」になることを掲げました。
「イベントや交流会を通じて、地元と外から来る人のハブになりたい。私たちやテナントが持つネットワークを活かして、情報発信や人と人との出会いの場をつくっていきたいです」
地域企業がワーケーションという文脈を通じて新たな役割を担おうとしている姿は、参加者への力強いメッセージとなっていました。
一方、次に登壇したのは、さくらインターネット株式会社の奥畑 大介氏。長年、コワーキングエコシステムを支援してきた同社が、今回スポンサーとして名乗りを上げた背景を語りました。
「青木さんやThe DECKの向井さんからお声がけいただき、イベントの趣旨に強く共感しました。我々が目指す“共創”という考え方と重なるものを感じたんです」
同社は、イノベーション共創をテーマに拠点運営や地域連携を推進しており、地方からの変革を重視しています。
「東京の一極集中を変えたい、でも東京を否定したいわけではありません。地方発で物事を決められる構造をつくっていきたいんです」
同社はインターネットインフラ企業としての立場から、新しいサービスや起業を応援し、それが結果として自社のサーバー事業にも波及すると説明します。
「日本全体が元気になれば、我々も元気になる。だからこそ、地域やスタートアップの動きを本気で応援しています」
さらに奥畑氏は、自身のモチベーションとして「子どもたちに良い未来を残したい」という思いを語りました。
「自分の子どもが社会に出たとき、今よりも働きやすい世の中になっていてほしい。そのために、今自分ができることをやっていきたいんです」
最後に、地域との関係性について問われた奥畑氏は、「思いを共有するところからすべては始まる」と答えました。
「社会を良くしたいと本気で思っている人たちと、一緒にチャレンジしていけたらと思っています」
地域に根ざす企業、そして大企業としての立場から支える企業。それぞれの形で、FLC Fesを通じた「越境と共創」の実践が始まっていました。こうした関係性の積み重ねこそが、地域エコシステムを育てる土壌となっていくのかもしれません。