沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza 」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。

「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つける)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。

本記事では、「全国規模の大規模店舗と地域の向き合い方」をテーマとして行われたセッションの様子をお届けします。

黒船は、いまや“共に暮らす者”へ

対立構造で語られがちな大手資本のコワーキングとローカルコワーキングは、参加者の耳目を集めるセッションとなりました。

「うちは黒船って言われることもあります。地域に入るときは、やっぱり“どんと来たな”って思われてしまうみたいですね」

全国各地に大規模なコワーキングを構える、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)ソーシャルデザイン本部副本部長の櫻澤 圭一氏は、地域参入にあたっての所感を率直に話しました。TSUTAYAをはじめとした全国展開企業が、公共図書館のリノベーションを通じて地域に参入していく際、地域住民との間に軋轢が生じることは決して珍しくありません。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)ソーシャルデザイン本部副本部長の櫻澤 圭一氏。

「2013年にオープンした佐賀県・武雄市図書館のときは、図書館の前に反対派の方々がプラカードを持って立っていたんです。自分たちのことが書かれているプラカードを初めて見た時の気持ちは、今でも忘れられません」。

過去の壮絶な体験を語る櫻澤氏の口調には恨みや苛立ちはなく、むしろその経験を経て「どうすれば地域に受け入れてもらえるのか」を試行錯誤してきた12年間であったと穏やかに語られました。

「今では以前反対していた方が、お孫さんを連れて図書館に来てくださることもあるんです。最初はわかってもらえなくても、形にになってサービスが伝われば、関係性は自然と変わっていくものなんです」。

図書館にカフェや書店を併設するという、一見“常識外”とも取られかねない空間設計も、奇抜さを狙ったわけではないそうです。

「黒船」と身構えられてきたが、地域へのリスペクトを持ってていねいに関係を築いてきた櫻澤氏。

「スターバックスで図書館の本を読める。書店で買う前に少し読んでみることができる。そんな“暮らしの中で自然と文化に触れられる場所”をつくりたかったんです。日常と地続きの場所でこそ、施設そのものが“まちの価値”になっていくと考えています」。

強い反対意見があったからこそ、櫻澤氏は“関係構築”の大切さに気づき、取り組むようになりました。

「武雄図書館のときは、10ヶ月という短期間で突貫的に整備したこともあり、地域との関係を築く時間が足りませんでした。でも今は、プロジェクトが始まる1~2年前から現地に入り、地域の方々との飲み会に顔を出したり、スナックに通ったりして、まちの空気を肌で感じるようにしているんです」。

東京から来た“外来者”ではなく、地域と“共に暮らす者”として存在する。そんな姿勢こそが、住民の心の扉を少しずつ開いていく鍵なのかもしれません。

地域と向き合う覚悟——“関係性”が先にある

「関係性ができていないと、地域の人から塩をまかれてしまうかもしれませんからね」。

そう語るのは、本セッションのモデレーターを務め、かつ兵庫県三田市で古民家をリノベーションしたコワーキングスペース「OFFICE CAMPUS(オフィスキャンパス)」を運営する古家 良和氏です。地元に根差し、花火大会や地域メディア制作などさまざまな活動を続けてきた氏の口から出たのは、「地域の信頼を得ることの難しさ」と「外部リソースを受け入れることの意義」でした。

兵庫県三田市でコワーキングスペース「OFFICE CAMPUS(オフィスキャンパス)」を運営する古家 良和氏。

「三田市はつながりが強く、やりたいことがすぐに始められる街です。その一方で、外に向けて閉じてしまう傾向もあります」。

よそ者を簡単には受け入れない風土。だからこそ、古家氏は外と中をつなぐ“橋渡し役”として自ら動くことを決意しました。

「自分たちで全部やるだけじゃなくて、外のプレイヤーも必要です。でもそれを実現するには、地元の信頼を得られる“中の人”と、外の関係を築ける“外の人”、両方の存在が必要なんです」。

それを裏付けるように語ったのは、株式会社ATOMica代表取締役Co-CEOの嶋田 瑞生氏です。全国41拠点を展開する同社では、地域の自治体や大学と連携しながら、現地に合ったスタイルの運営を行っています。

株式会社ATOMica代表取締役Co-CEOの嶋田 瑞生氏。

「僕たちは、どこでも“アトミカ”という名前をつけているわけじゃないんです。ほとんどの拠点は、地域の名前や文脈に合わせて現地の名称で運営しています」。

その背景にあるのは、「地域と共に在る」という強い姿勢です。嶋田氏自身も、地域に入る際は歴史や文化を徹底的にリサーチし、街の人との関係性構築に力を注ぎます。

「例えば、広島県の福山市と岡山市に拠点があるんですが、聞き取りをしていくと福山市は、同じ広島県内の広島市よりも岡山県岡山市の方が文化・習慣が近しいことが分かりました。そうすると、行政区分では切れていても、文化や経済はつながっていたりするんですよね」。

そうした地域理解の深さが、地元に根付くための第一歩になると氏は話します。さらに、同社では現地採用のコミュニティマネージャーを配置することを基本とし、地域住民との日常的な接点を築いてきました。

ユーモアたっぷりに語る登壇者たちの姿。会場はあたたかい雰囲気に包まれました。

「その土地に根差している人が、同じ目線で語りかけるからこそ、信頼される。僕たちが外から行って飲み会に参加するのも大事ですが、現地の人がいることが何より重要なんです」。

「暮らすように働く」「話すように繋がる」。コワーキングスペースという言葉の背景には、そんな“人と人との関係性”を土台にした実践がありました。

コミュニティマネージャーに求められる地域との距離感と関係性

地域と都会とで異なる関係の築き方について、その難しさを語ってくれたのはWWJ株式会社のシニアコミュニティマネージャーである郡谷 羽衣氏。全国で「WeWork」を展開する同社は、大小さまざまな規模の自治体と関係を築いてきました。その経験から、郡谷氏は次のように話します。

WWJ株式会社のシニアコミュニティマネージャー、郡谷 羽衣氏。

「地域と都会とでは、仕事の進め方であったりPRの仕方であったり、さまざまな点で違いを感じています。たとえばPRで言えば、地方自治体の方のプレゼンテーション。担当者の方がとても丁寧に資料をつくってきてくださるんですが、地域の特色として土地の面積や都心から何分といった情報が多いんですよ。正直、それを売りにしちゃうのかといったズレを感じることもあり、ビジネスの場で魅力になりうるポイントが何かを考え、軌道修正しつつ一緒に探しながら伴走しています」。

また、「ビジネスとしてはどういった数字が欲しいんですか?」といった古家氏の質問には、「コミュニティにおいて数字はもちろん大事なのですが、そこよりもメンバーの方と実証実験を行い、社会実装をどれだけできたかという事例があると一番理想ですね」と答えました。

「よく誤解されるのですが、WeWorkはただのシェアオフィスではありません。入居企業や地方自治体と連携したオープンイノベーションの取り組みや、社会実験の事例も多くあります。こうした地域経済や暮らしに資する取り組みをこれからも生んでいきたいですね」。

セッション終盤、モデレーターの古家氏が切り出したのは「地域との距離感」。地域と関わる上で避けて通れないのが、“中に入りすぎる”ことで起こるしがらみや、関係性の過剰な密度です。

デリケートな問題についても積極的に切り込んでいくモデレーターの古家氏。

嶋田氏は、古家氏の話を受けてもなお「仲良くなりたい」と断言しました。

「よそ者だからこそ、言えることがある。地域の方同士では言えないようなことも、外の人間が“嫌われ役”になって言える。そのためには、関係性を築いておく必要があります」。

同社では、地域ごとに現地採用されたコミュニティマネージャーが活躍しており、関係性構築の“核”になってます。さらに、同社が重視しているのは、関係性を仕組みとして“再現可能”にすること。

「僕たちは『WISH(ウィッシュ)』と『KNOT(ノット)』という言葉を使っています。WISHは“願い事や悩みごと”、KNOTは“それを結ぶ”という意味です。この2つが、僕らのコミュニティマネジメントの中心にあります。会員さんの“願い”をどれだけ聞き出せたか。そして、それを誰かとどう“結び”、どんな成果を生み出せたか。それがコミュニティマネージャーの成果指標になります」。

一方で、カルチュア・コンビニエンス・クラブの桜沢さんは「現地に住む」ことで関係性を築いてきました。

難しいテーマに忌憚のない意見と本音を述べる登壇者。腹を割った議論が交わされました。

「図書館の立ち上げ前には必ず1年以上はその地域に通うようにしています。スナックに行って地元の人と話すことで、“市長って最近どう?”みたいな本音が聞こえてくるんです」

その“感覚”を掴むためには、長い時間と丁寧な対話が必要です。実際に同社が関わった武雄市図書館では、当初の猛烈な反対運動を、時間とともに「週末には孫を連れてくる」関係性へと変えていきました。

また、採用の観点からもコミュニティマネージャーには“資質”が問われます。郡谷氏は、「陰キャが向いていると思います」と笑いながら本音を語ります。

「自分から積極的に関係を作れない人ほど、人とのつながりを大事にしようとする。その感受性が、地域での信頼構築に生きてくると思っています」。

それは一見、逆説的なようにも思えます。しかし、「だからこそ人とつながれる場所が必要だ」と感じられる人が、最も“誰かをつなげる”役割にふさわしいのかもしれません。

古家良和

OFFICE CAMPUS
代表/デザイナー

1991年4月30日生まれ。紙・WEB、写真、映像、WEB広告のデザイン事務所TSUGINI 代表、ソーシャルデザイナー、クリエイティブディレクター。 兵庫県三田市の地域活動に関わって10年。古民家をリノベーションしたコワーキングスペース OFFICE CAMPUS も設立。Beyond the Communityの中心メンバーとしてコワーキング業界の発展に力を入れる。

嶋田瑞生

株式会社ATOMica
代表取締役Co-CEO / 代表コミュニティマネージャー

大学1年生の起業・会社経営体験を通じて様々なオトナと出会い、 そして共創が起きていく面白さに気付く。
新卒では株式会社ワークスアプリケーションズにエンジニアとして入社し、顧客巻き込み型の開発スタイルを学んだのち、2019年4月にATOMicaを創業。創業から5年で累計資金調達額は13億円、従業員数は100名を超え、北海道から沖縄まで事業展開を進め全国で41施設を運営中。2024年度地方創生テレワークアワード(地方創生担当大臣賞)受賞。

櫻澤 圭一

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
ソーシャルデザイン本部 副本部長

2003年現職に入社し、書籍販売などを行うTSUTAYAで店長やエリアマネージャーを歴任。2012年からは新規事業で公共事業の立ち上げに参画し、佐賀県武雄市図書館など複数施設の開設を主導。2018年には山口県周南市立徳山駅前図書館の館長に就任。現在は、公共施設受託のソーシャルデザイン本部副本部長兼、創業支援施設の運営責任者を務めている。

郡谷 羽衣

WWJ株式会社
Senior Community Manager

大学卒業後、株式会社三菱UFJ銀行に入社。その後、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズにてウェディング業界に従事。退職後は6年間フリーランスとしてイベント・ウェディング、結婚式場相談の他、伝統工芸品支援やキャリアアドバイザーなどの仕事を経て、WeWork Japan(現 WWJ株式会社)のコミュニティチーム拠点長として入社。現在はエリア統括および地方自治体コミュニティ責任者として、入居企業マッチングや地方創生に力を入れている。

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