沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。
「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つける)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。
本記事では、「難しくない明日から使えるコミュマネメソッド〜気づけば、みんなコミュマネになれるんです〜」をテーマとして行われたセッションの様子をお届けします。
各領域でつながりを支える4人の背景
コワーキングスペースという領域に限らず、広くコミュニティに関わってきたトップランナーたちが登壇。
「難しくない明日から使えるコミュマネメソッド〜気づけばみんなコミュマネになれるんです〜」と題されたFLC Fesの本セッション。4人の登壇者が、それぞれの地域や分野で「人と人をつなぐ」役割を担っている実践者です。まずは彼らの自己紹介を通じて、活動の背景や想いに迫っていきました。
モデレーターを務めたのは、Curations,Inc.取締役CSO(現 リベラルアーツ合同会社 代表社員)であり、沖縄をはじめ各地域のスタートアップ支援に関わっている渡邊 貴史氏。現在は行政と連携しながら、沖縄県を中心に地域の振興政策を形にするアドバイザリーフェローとして活動しています。
Curations,Inc.取締役CSO(現 リベラルアーツ合同会社 代表社員)であり、沖縄ITイノベーション戦略センターのアドバイザリーフェローである渡邊 貴史氏。
「私はCurations,Inc.という会社で役員をしており、特に沖縄県のスタートアップ振興政策づくりや実装支援をしています。行政に対して、遠慮なく提案する立場として、もう5年ほど地域に関わらせていただいています。北海道、九州、中部地方でも同様にお手伝いをしてきました」。
同氏はそう自己紹介をした後、「堅苦しい話や難しい用語に引っ張られずフランクに話していきたい」と述べ、それぞれの登壇者の自己紹介へとバトンをつなぎました。
最初にバトンを受け取ったのは、沖縄県から登壇した金城 有紀氏。病院内ではなく、地域をフィールドに活動する「コミュニティナース」として活動しています。ウェルビーイングの実現のため、コミュニティの力で支え合っていく「相互扶助」の社会を目指して、夜市や公民館といった暮らしの場に自ら足を運び、住民の声を拾い上げています。
Social Nursing LaboratoryのFounderである金城 有紀氏。
「私は沖縄でコミュニティナースという看護師をしています。人と繋がり、街を元気にすることをコンセプトに、病院の中ではなく地域の中で、住民の皆さんとつながりながら健康的なまちづくりに貢献しています。病気になってから病院に行くのではなくて、生活の中に看護師がいるといいんじゃないかなと思い、こうした活動に取り組んでいます」。
コミュニティナースは全国各地で活動しており、それぞれの地域ごとに異なる特色を持って活動をしているとのこと。医療従事者のみならず、地域で暮らす人々それぞれが健康意識を持ち、お互いを支え合う中で地域コミュニティを築いていけるよう活動をしてきました。
次に紹介されたのは、株式会社ヴィスでシニアセールスマネージャーを務める近藤 真生氏。毎朝「出会いに感謝」と手書きで綴ることを習慣としており、年間390回の交流会を開催。400人以上との接点を作ってきました。ビジネスを目的にしているわけではないものの、結果として人のご縁からビジネスの可能性を生み出していると語ります。
株式会社ヴィスでシニアセールスマネージャーを務める近藤 真生氏。
「私は株式会社ヴィスというオフィスデザインを専門に扱う一級建築士事務所で営業をやっています。出会いを大切に仕事に取り組んでおり、毎朝5時半に起きて、その日会う人のために手書きで『出会いに感謝』と書く、この習慣を20年近く続けてきました。昨年は390回の交流会を開催し、2400人と出会いました。私は営業をしていますが、営業活動の中で『営業をしないこと』を貫いています。人と人をつなげることが、最大の営業になると信じています」。
「面白い人たちを集めてつなげて感謝されること」が仕事だと話す同氏。交流会も決して堅苦しいものではなく、ランチや夕食を共にするといったフランクなものが多いそう。ユーモアたっぷりに話す近藤氏のお人柄から、交流会の場が明るいものであることが容易に想像できました。
最後に自己紹介したのは、大阪のコワーキングスペース「The DECK(ザ・デッキ)」でコミュニティコーディネーターを務める向井 布弥氏。「ふーみん」の愛称で親しまれ、世界中からワーカーが集うThe DECKで、日々人と人とのコラボレーションが生まれるきっかけの種を蒔いています。
The DECKでコミュニティコーディネーターを務める向井 布弥氏。
「大阪から来ました向井です。『The DECK』というコワーキングスペースでコミュニティコーディネーターをしています。さまざまな国や地域からワーカーが集まる場所で、人と人をつなぎコラボレーションを生み出す役割を担っています。また、スタートアップ支援や起業家の事業計画書作成のサポートもしています」。
向井氏は、世界に4000万人程度いるとされている「デジタルノマドワーカー」を対象に、日本に訪れた際に日本の歴史文化の魅力を伝えたり、地域のキーマンを紹介したりと、諸外国との架け橋を担ってきました。市場規模は約100兆円にのぼるものの、世界と比べて日本は出遅れており、デジタルノマドビザの活用もあまり進んでいないそうです。そんな中、The DECKでは2024年に160名以上のデジタルノマドワーカーを受け入れ、イベントを通じて地域の紹介をしたり、日本での起業支援をしたりと「日本の頼れる友人」として彼らを側でサポートしています。
それぞれ活動とご縁のつなぎ方に違いはあるものの、4者に共通していたのはギバー(貢献)のマインドです。自身のコミュニティや目の前の人に対し、自分がどう力になれるかを考えて接してきました。議論はここから彼らの人やコミュニティに対しての「向き合い方」へと展開していきます。
それぞれの実践に宿る「関わり方」
コワーキングスペース業界以外でのコミュニティの話は多くの参加者の耳目を集めました。
セッション中盤では、登壇者たちが普段どのように人と関わり、関係を育てているのかが語られました。注目されたのは、関係づくりの根底にあるそれぞれの価値観と行動の工夫です。
金城氏は、自らを人見知りだとしつつ、自分から“ナンパ”を仕掛けていくスタイルが大事だと語りました。単に支援する側にとどまらず、地域の人々との双方向の関係を築いていくために、「会いに行く」「声をかける」を繰り返す姿勢が印象的です。
「私、自分のことをナンパ師だと思っていて。例えば『こういうことしたい』とか、『これ欲しい』って時に、必要な人や情報をこっちから探しに行って声をかける。例えばですけど、私は今電気自動車に乗って地域を回っています。これは行政の持ち物で、通常は借りるのに堅苦しい手続きや相談が必要になります。しかし、声に出して色んな人に相談してみることで思わぬルートから使用できることになりました」。
渡邊氏は金城氏の独自の地域への溶け込み方に関心を寄せつつ、他の登壇者にも同様の質問を投げかけました。近藤氏はそれに応える形で、「面白い人には共通点がある」と語り、声をかけたくなる3つの条件を明かしました。
コミュニティを形成する面白い人の3要素を語る近藤氏。
「僕が声をかけている人たちは面白い人たちです。そこにはマイルールというか、条件があります。面白いなって思う人には3つ共通点があって、1つ目はまた会いたいと思える魅力があること。2つ目は人の話をちゃんと聞けること。そして3つ目は本業に困っていないこと。そういう人って自然と余白があるから、僕も他の誰かに紹介したくなるんですよね。余裕が無いと、どうしても仕事獲得や人脈目的で参加することになってしまう。それはコミュニティとして上手くいかないので、余裕を持っていて人の話に耳を傾けられる人を中心にコミュニティを築いていますね」。
さらに同氏は、「自己紹介より『他己紹介』を大事にしている」と話し、自分のことよりも人のいいところを探すことを心がけ、人繋ぎをしていると付け加えました。
近藤氏の3つの条件を受け、向井氏はThe DECKを訪れるデジタルノマドたちの中でも「グッドバイブス」を持った人々との交流について紹介しました。彼らは「何か地域に貢献したい」というギバーのマインドを持ち、地域と真摯につながろうとする人たちだといいます。向井氏はその“ときめきポイント”を察知し、地域のキーマンと結びつける役割を果たしています。
近藤氏の話に耳を傾ける向井氏。重なる部分から話題を広げていきました。
「グッドバイブスなデジタルノマドたちは、来た瞬間から雰囲気が違うんですよね。『この街で何か役に立ちたい』って心から思ってくれていて、きっかけを探している。だから私も、歴史とか日本のローカルエリアの話でときめいてくれる人を見つけたら、そこから地域のキーマンを紹介し、一緒に現地に行くこともよくあります」。
モデレーターの渡邊氏は、3人の語りを受けて「つながるとは、自らのスタンスを持って関わること」だとまとめました。「ハブになりたい」と名乗るのではなく、自然な関心と関与の中に人が集まるのだという視点が提示されました。
「ハブになっている人って、こういう面白い話があるんだけどどう思う?とか、向こうでこういう人探していたんだけど知り合いにいませんか?とか、自然に言ってるんですよね」。
語られた内容から浮かび上がるのは、「つながりは結果ではなくプロセスそのもの」であるということ。一方的な支援や仕組みではなく、それぞれの興味や行動、想いから関係は生まれていく。登壇者たちの姿勢に、日々の関わりを豊かにする示唆が詰まっていました。
その人らしさが「つながり」を生む
それぞれの強みに切り込むモデレーターの渡邊氏。
セッション終盤、話題は「人をつなぐ強みとは何か」という問いに移っていきました。それぞれが自らのスタイルでコミュニティと関わる中で、大切にしている姿勢や力について語られました。
近藤氏が目指しているのは「太陽のような存在」だといいます。太陽のように常に明るく、誰に対してもフェアであること。どんな人にも同じ温度で関わり、断られても姿勢を崩さず何度でも誘うことを大事にしていると語ります。
「太陽って、明るくて誰に対しても公平じゃないですか。だから僕も誰に対しても同じ姿勢で接するようにしていて、断られても「承知しました、また誘いますね」って毎回返してるんです」。
さらに彼は「ミツバチ理論」という独自の考え方も紹介しました。自分の目的のために動きながらも、結果的に周囲に花粉=価値を運ぶような、「自己中心的利他」のあり方です。無理なく続けられる行動が、自然と他者の役にも立つという持続可能な関係構築のヒントが示されました。
向井氏は、マネージャーという役割を「お世話を焼く人」と定義し、大阪人らしい例えで「焼き加減」の重要性を語りました。相手へのリスペクトと愛を起点に、焼きすぎず、焼かなさすぎず、ちょうどいいタイミングで関係を温める。
「私が焼いているのは“お世話”なんです。初対面であっても目の前にいる人のことが「好きだ!」という気持ちがベースにあるので、相手のいいところが見えるし、褒めたくなる。それが人をつなぐきっかけになっていくんです」。
観光体験の設計においても、単なる消費者ではなく、地域と未来を共有できる存在として関わってもらうために、行政や住民との丁寧な対話と段取りが繰り返されている様子が印象的でした。
議論が深まるにつれ、熱量を増していく会場の様子。
金城氏は、自身の強みを「ナンパ力」だと表現しました。必要な人や情報に自分から声をかけ、関係を生み出していく姿勢です。さらに彼女は、沖縄特有の“おせっかい”な文化が関係構築の土壌になっていることにも言及しました。
「沖縄って、おじいやおばあの家に行くと料理が止まらないし、小学生が銀行に水を飲みに来るんです。本土ではあまり見ない光景だけど、こういう空気感が人を受け入れるベースになっているのかなと思います」。
モデレーターの渡邊氏は、持続的な関係づくりには「楽しさ」が不可欠であり、自分の強みを自然体で出せることが鍵になると短くコメントしました。
「人をつなぐ力」とは、派手なスキルや肩書きではなく、自分なりの姿勢やリズムの中に宿っていました。それぞれの「らしさ」が、そのまま誰かとの接点になり、信頼を生み出している。このセッションは、肩肘張らずに人とつながるヒントにあふれていました。