高野 智有
クラゼクト株式会社
取締役
クラゼクト株式会社、株式会社CLAZect.Plus取締役
AkibaコワーキングスペースRampart運営
全国各地のコワーキングスペースのプロデュースや集客アドバイザー。
障害者福祉施設運営のほか、バックオフィス代行、マーケティングコンサルなどで中小企業のサポートを行っている。
沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。
「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つける)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。
本記事では、「コミュニティ起点の事業構築」をテーマとして行われたセッションの様子をお届けします。
本セッションでは、クラゼクト株式会社取締役の高野 智有氏と合同会社Furutori代表社員の森本 雄也氏が登壇。冒頭では、東京と地方という異なるカルチャーや経済圏を持つ地域で活躍するお二人が、それぞれの事業内容と活動拠点について自己紹介をしました。最初にマイクを握ったのは高野氏。会社設立の経緯と取り組んでいる事業について次のように話しました。
「2017年に立ち上げた当社は、最初人材派遣業からスタートして、その後、障害福祉、イベントなどのライブ配信事業、地方支援など、さまざまな事業を展開してきました。また、『ランパート』という秋葉原にあるコワーキングスペースを運営しており、そのほかにも個人としてマーケティングコンサルティングを行っています。最近は新設のコワーキングスペースの集客や運営のご相談も寄せられるようになり、コミュニティのコンサルティングなども手掛けています」。
「ランパート」は東京・秋葉原という都市型立地にあり、駅からの距離はなんと徒歩20秒程度。日本経済のど真ん中で事業に取り組んでいる高野氏に対し、「東京から一番遠いまち」として知られる島根県江津市から参加したのが森本氏です。
「私は島根県江津市という、人口2万人弱のまちで活動しています。東京から8時間ほどかかり、東京から一番遠いまちとして注目を浴びたこともある地域なんです。もともとは県外で働いていましたが、約6年前に地元に戻り起業し、合同会社Furutoriを立ち上げました。事業としては地域の事業者に向けたWebマーケティングを行っており、江津市を拠点として地域密着型の事業を手掛けています」。
地域に良いサービスやプロダクトはあるものの、発信に課題があると話す森本氏。特に地方においては、IT人材はもちろんそこに充てる資金的な余裕が無く、困っている事業者が多いと言います。
「できるだけ安価にサービスを提供できるよう、今力を入れているのがMEO対策の支援です。SNSの投稿がGoogle Map上に反映されるというツールを提供しており、いろんな媒体で発信ができるような仕組みを構築しています。また、最近では地域の魅力を発信するショート動画のコンテストを企画していて、クラウドファウンディングにも挑戦。市内在住の方はもちろん、市外や県外の方に地域の魅力に触れていただく機会を創出すべく取り組んでいます」。
両氏の自己紹介がひと段落したところで、高野氏は「今回のテーマは一言で言えば『マーケティング』だ」と主張。この後、都会とローカルそれぞれの環境が持つ特性を浮き彫りにしながら、マーケティングの観点でコミュニティや事業構築についての議論が展開されていきました。
「どれだけいい提案をしても、“よそ者”からは受け入れられにくい。だから私は“地域の中の人”として、まずは信用を積むことを大切にしました」。
森本氏は、事業の立ち上げ期に直面した苦労をこう語ります。WebマーケティングやMEOといった横文字は地域の事業者にとってなじみが薄く、初めのうちは話すら聞いてもらえないことが多かったと語ります。
しかし、森本氏は諦めませんでした。地域のコミュニティに自ら身を置き、少しずつ「顔が見える存在」としての信頼を築き上げてきました。青年会議所への加入をはじめ、地元の祭りでの神輿担ぎ、消防団や子ども会の役員といった地域活動に積極的に参加していきます。
一方、高野氏は森本氏と異なる形で地域を捉えていました。
「僕は東京の人間なので、実を言うと地域に根差したローカルなコミュニティってあまり無いですし、参加もしていません。地方と同様に青年会議所をはじめとする地域の経済団体はあるのですが、地域密着のイメージはそこまで強くありません。また、地域行事に積極的に参加することもありません。しなくてもビジネスはできるんですよね。東京と地方では、そうしたコミュニティへの向き合い方というか、イメージが違うのかなと思います」。
都会とローカルの視点でコミュニティの捉え方が全く異なる両者。テーマであるコミュニティ起点の事業構築についても、地域特性によって大きく異なりそうです。森本氏も高野氏の話に対して共感を示し、「コミュニティに限らず、マーケティングについても一般的に世に出回っているマーケティングの手法と地域を盛り上げるためのマーケティングの手法は全く異なる」と付け加えました。
高野氏は、コミュニティを一言で括ってしまう危険性について言及しつつ、都会ならではのコミュニティについて自身の取り組みを踏まえて次のように話します。
「僕自身コワーキングスペースを運営していますが、実はコワーキングスペースや地域におけるコミュニティにあまり固執していないんです。東京にはビジネスコミュニティが多くあり、それぞれの業界ごとにコミュニティがあります。僕は、そうした業界コミュニティ内で一緒に協業する形でコミュニティを持っているっていう感じです。コワーキングスペースや地域だけでコミュニティ捉えていないところが、僕の会社のひとつの特色かなと思います」。
都会とローカルのそれぞれでコミュニティの捉え方が異なるため、そこを起点とする事業構築も異なる。セッション中盤は、両氏が異なる文化的背景を持っていることで、より議論にシャープさが増し、深まったような印象を持ちました。
「コミュニティって、一言で言ってもいろんな顔がある。だから“同じ言葉で違う意味を話している”可能性があるんです」。
セッション後半、高野氏がこれまでの内容を振り返ります。町内会や子ども会のようなローカルなつながり、ビジネスにおける協業関係、そして顧客との関係性——そのすべてが“コミュニティ”と呼ばれるものの一側面なのです。
森本氏も高野氏の話に同意しつつ、コミュニティについてさらに論を展開。現在取り組んでいるクラウドファウンディングによるショート動画コンテストについて話します。
「本プロジェクトは、地元・江津市の魅力を市外・県外へ発信することを目的としていますが、そこに込められているのは『共犯者を増やす』という発想です。“共犯者”という言葉を使っているのは、一緒に楽しんでくれる仲間を増やしたいから。単なる支援者ではなく、自分ごととして関わってくれる人を巻き込みたいんです」。
この「共犯者=ファン」という構図は、実はマーケティングにおいても非常に重要な要素。高野氏はこれがファンマーケティングであり、業界では「BtoF(Business to Fan)」として注目を浴び始めていると話します。
「BtoBでもBtoCでもなく、BtoF。ファンに向けてビジネスをするという考え方です。ファンは一度お客さんになったあと、繰り返し利用してくれたり、新しいお客さんを連れてきてくれたりします。だからこそ、ただ売るだけでなく、関係を育てていく視点が必要なんです」。
さらに、高野氏は「提供する側」もコミュニティであるべきだと語ります。同じターゲットを持つ複数の事業者がチームとして連携し、顧客に対して複合的な価値を届けていく。これは、マーケティング戦略でありながら、同時に人間関係に根ざした仕組みでもあります。
「マーケティングって聞くと、分析や広告の話だと思われがちですが、結局は“誰の課題をどう解決するか”に尽きるんです。そしてその課題を、本当に深く知っているのは、日常的に対話しているファンや協業パートナーなんですよ」。
コミュニティから始まる価値創造。ファンとして共に歩む関係性。こうした循環ができている事業は、変化に強く、長く続く。森本氏と高野氏が語るビジネス像は、地に足がつきながらも希望に満ちたものでした。
「結局、営業もマーケティングも、そしてコミュニティマネジメントも、全部“相手を知ること”から始まるんだと思います」。
そう締め括った両者の表情は、それぞれのスタンスでコミュニティと深くつながり、育んできた関係性への誇りに満ちていました。
クラゼクト株式会社、株式会社CLAZect.Plus取締役
AkibaコワーキングスペースRampart運営
全国各地のコワーキングスペースのプロデュースや集客アドバイザー。
障害者福祉施設運営のほか、バックオフィス代行、マーケティングコンサルなどで中小企業のサポートを行っている。
「東京から1番遠いまち」島根県江津市を拠点に活動する合同会社Furutoriの代表、森本雄也と申します。地域創生に情熱を持ち、地元である江津市の魅力を最大限に引き出すことに日々取り組んでいます。持続可能な地域づくりを目指し、皆様と共に新しい価値を創造していきたいと考えています。特に、Web集客支援を通じて地方の事業者様の成長をサポートし、若者の視点を活かした地域の魅力発信にも力を入れています。