沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。

「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つける)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。

本記事では、「私達は何のために働き、2nd placeはどのようにあるべきか」をテーマとして行われたセッションの様子をお届けします。

働く場所としてのコワーキングスペースの価値

FLC Fesの最後を飾るクロージングセッションには、多くの聴講者が集いました。

「1989年にアメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグは働く場所を“セカンドプレイス”と命名。日本では1986年に男女雇用機会均等法が施行され、1988年には改正労働基準法によって法定労働時間が短縮されるなど、30年以上にわたってセカンドプレイスを取り巻く環境は変化し続けてきました」。

冒頭、JCCO代表理事で本セッションのモデレーターを務める青木 雄太氏は会場に向かって語り始めました。

「我々は、改めてセカンドプレイスがどうあるべきかを考え、望ましい未来についてセッションを行い、このイベントを締めくくりたいと思います」。

JCCO代表理事で本セッションのモデレーターを務める青木 雄太氏

FLC Fes最後のクロージングセッションに相応しい、重厚かつ深淵なるテーマを提示した青木氏。テーマについて議論を交わすのは3人の登壇者です。最初に自己紹介をしたのは、さくらインターネット株式会社マネージャーの奥畑 大介氏。自社の紹介と現在取り組んでいる場について話しました。

「私たちさくらインターネットは、インターネットインフラを提供している会社で、全国にデータセンターを展開しています。これまで『インターネットで日本を面白くしていきたい』との思いで事業に取り組んできました。最近はコーポレートスローガンである『やりたいをできるに変える』を体現したオープンイノベーション施設『BloomingCamp』を大阪に新設。こちらは弊社の本社となっており、オープンイノベーションの環境と本社機能を融合した形になっています」。

さくらインターネット株式会社マネージャーの奥畑 大介氏。

加えて、奥畑氏はBloomingCampが生み出すのはオープンイノベーション、つまり「共創」であり、既存のコワーキングスペースとの「競争」ではないと強調。青木氏も同社が長年コワーキング業界に貢献してきたことを紹介し、奥畑氏の考えに共感を示しました。

続いてマイクを握ったのは、MIRAI-INSTITUTE株式会社取締役の田中 嶺悟氏。同氏は、自社が未来の働き方を探求するシンクタンクであることを説明し、社会が面白くなっていくための方法を模索していると語ります。

「我々は都内で『MIDORI.so』というシェアオフィスを5拠点運営しています。特徴としては、拠点スタッフを『コミュニティマネージャー』ではなく『コミュニティオーガナイザー』と呼称していること。前者はその人自身が積極的にコミュニケーションを取ってコミュニティを作っていくイメージだと思うのですが、後者はそれが自然に起こるような状況を整えることが仕事であり、明確に区別しています」。

MIRAI-INSTITUTE株式会社取締役の田中 嶺悟氏。

利用者やコミュニティに対して積極的に仕掛けていくのではなく、自然と関係性が築かれたり、創発が生まれたりするような場づくりを行なってきた田中氏。コミュニティマネージャーとは異なる角度からアプローチしてきた氏の話は、会場の聴講者の興味関心を強く引き付けていました。

最後に、本イベントの開催地である沖縄県から沖縄セルラー電話株式会社事業創造部副部長の仲地 翔子氏が登壇。地域の特徴に触れながら、自社の取り組みについて話しました。

「弊社は『地元に全力』を合言葉に、沖縄経済の発展のために立ち上がった通信会社です。と言いつつ、通信事業以外にも、例えば教育事業を通した地元の子どもたちの体験格差の解消や、スマート農業による雇用創出など、離島であるが故の機会の少なさを解決するさまざまな取り組みを行なってきました。私はそうした会社の姿勢に惹かれ、自分が生まれ育ったこの地に何か還元したいと思って入社し、現在新規事業の開発に取り組む事業創造部で働いています」。

沖縄セルラー電話株式会社事業創造部副部長の仲地 翔子氏。

仕事を通し、まだまだ見つけられていない地元沖縄の魅力に出会うと話す仲地氏。その魅力や感じる可能性が仕事のエンジンになっているそうです。

仲地氏の熱い思いに触れた奥畑氏は、マイクを引き取って次のように話を展開しました。

「今回のテーマに『何のために働くか』がありましたよね。僕は今の話で仲地さんの『地元のために働く』という部分がとても強いように感じました。登壇者それぞれで働く目的は異なると思うので、ぜひこれからうかがっていきたいです」。

コワーキングスペースは、働く現役世代だけのための場所なのか?

テーマを提示し、会場と登壇者に問いかける奥畑氏。

奥畑氏の問いかけを受け、セッションは「何のために働くのか」という根本的なテーマへと進みました。奥畑氏は、最初に自身の考えを次のように話します。

「僕の働く理由はまず自分のためでした。自分が満たされていないと、正直、他人のことまで考えられない。でも、ある程度自分が満たされると、一人の限界を感じるようになり、自然と他者を意識するようになっていくんですよね」。

働く理由は一生固定されるものではなく、ライフステージや環境の変化によって変わっていくものだと述べました。

仲地氏は奥畑氏の話を受け、共感を示しつつ自社の理念と取り組みについてこう話します。

地元への思いから就職を決めた仲地氏。自社の取り組みを語る口調にも熱が入っていました。

「私たちは『社員の物心両面の幸福を追求する』という経営理念を掲げています。働くことは、単に生活の糧を得るだけでなく、心の満足や自己実現にもつながるものです。だからこそ、会社としても、社員がやりがいを持って働ける環境を整えることを大事にしています。奥畑さんの話の通り、まずはそこからじゃないですか。心理的安全性が担保され、公私共にある程度満たされている状態だからこそ、新たな挑戦や利他心が生まれるのだと思います」。

両者の話に耳を傾けつつ、「コワーキングスペースはセカンドプレイスの枠を拡張していくことが大事なんじゃないか」と、議論に新しい風を吹き込んだのは田中氏。今後コワーキングスペースが考えるべき視点を提供します。

「我々は働く人のためだけのスペースを超えていく必要があるんじゃないかと思っています。社会って決して働く現役世代のみで形成されているわけじゃない。働くことだけにフォーカスし過ぎると、労働人口以外は社会のお荷物だという考え方になってしまい、世代間の分断を生んでしまいます。イノベーションは本来、そういった分断を乗り越えた多様性の中で生まれるものだったはずです」。

コワーキングの可能性を広げる話を展開した田中氏。

資本主義ど真ん中の都会でコワーキングスペースを運営する田中氏からこうした視点が提供されたことに少し驚きを覚えつつ、議論はより深みを増していきます。

奥畑氏は田中氏の課題意識について同意を示し、分断を解決する手法としてハードの面から具体的な取り組みを紹介しました。

「旧来のオフィス環境は、会議室があって個室があって、それぞれの目的や仕事に最適化された環境でした。しかし、弊社はフルリモート制度が浸透するにつれて『社員が来たいと思えるオフィスって何だろう?』と考えるようになり、『他者とのコミュニケーションから生まれる偶発性への期待』を仮説として持ちました。そのため、BloomingCampでは物理的な壁を徹底的に取り払い、用途やアイデアに応じて成長していく可変性を持ったオフィス空間に仕上げました」。

「空間の可変性」について話した奥畑氏に対し、田中氏はこう続けます。

「基本的に場所は目的に最適化されます。そのため、可変性が無い場所は、一部の属性に最適化され過ぎて他の属性の他者を受け入れられず、結果分断を生んでしまうんですよね。この分断を取っ払っていくためにも、多様な属性の人たちが共存できる空間デザインがより求められると思います」。

三者の議論を注視していた青木氏は、登壇者それぞれの話を「面白いと思うコワーキングスペース」としてまとめました。

具体と抽象を行き来する難解なテーマの議論をまとめ、コントロールする青木氏。

「良いかどうかの話は一旦置いておいて、僕が面白いと思うコワーキングスペースって行くたびに変化があるんですよ。利用者の増減や属性の変化、そしてライフスタイルやワークスタイルの変化に合わせて、どんどん柔軟に対応していくんですね。それこそが本当の意味でコワーキングスペースに求められる『最適化』ではないでしょうか」。

地域を開き、交わる――これからの“働く場”のかたち

セッション終盤では、地域と企業、そして人々がどのように交わり、これからの“働く場”を形作っていくかが深掘りされました。

テーマについて白熱した議論が交わされた壇上。

田中氏は、仲地さんの話にあった沖縄セルラーの取り組みについてこう語りました。

「沖縄セルラーさんの“沖縄のために”という会社のミッションは、とても広がりがあると感じます。子どもから高齢者まで、さまざまな世代が交わる仕組みが自然と組み込まれているように思いました。体験格差解消の事例も、社会の生成過程に子どもたちが入っていくという意味で、非常に象徴的ですよね」。

これを受けて、仲地氏がさらに詳しく現場での取り組みを紹介します。

「私たちのオフィスは見学が多く、壁がない開かれた空間を意識しています。面白い取り組みとして年に一度“職場参観”のようなイベントを開催していて、地域の皆さんをビルの中にお招きし、感謝祭を行っています。社員がボランティアで運営し、ほとんど学祭のような雰囲気なんですよ。オフィスを地域の方に見てもらうことで、会社を応援してもらえる環境づくりを続けています」。
仲地氏は、地域にオープンな環境を作ることで、理解と信頼が深まり、企業と地域がより密接に結び付くと話しました。

青木氏は、この取り組みに共感を示し、「オフィスを開くことで外から新しい風が入り、それが刺激になる」とコメントしました。

登壇者の話に真剣に耳を傾ける青木氏。

続いて、奥畑氏はBloomingCampの狙いをこう語りました。

「オープンイノベーションの場として、まずは“共有”がスタート地点だと思っています。たくさんのイベントを開催し、その中で共感できるものを見つけて、さらに一歩進んで共創が生まれる――このプロセスが大事です。BloomingCampという場で、そうした“種”をどんどん蒔いていきたいですし、日本各地でも同じような場が増えれば、地域から国全体が元気になると信じています」。
田中氏は、最後に世代間のつながりの重要性に言及しました。

「日本はもともと地域コミュニティの文化が根付いている場所です。世代をミックスしていくことが、社会課題を解決する糸口になると思います。ワークスペースがそういう実験や新しいチャレンジの場になるといいなと感じました。今回も地元の子どもたちが会場をのぞき込んでいる様子が印象的で、こうした光景こそ未来につながるのではないかと思います」。

セッションの最後、クロージングとして青木氏がメッセージを送ります。

コワーキングだけでなく、FLC Fesの展望についても語られ、会場は熱気に包まれました。

「今回のセッションは、働く場所をどう作り、どう進化させていくかを考える大きなヒントになったと思います。私たちの世代が仮説検証を続け、日本独自の“働く場”の形を作り上げていくことが大事だと改めて感じました」。

こうして議論は締めくくられ、参加者は地域と働く場の未来について深く考えながら、次のアクションへの一歩を踏み出していきました。

青木 雄太

一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会
代表理事

株式会社funky jump代表取締役。コミュニティマネージャーの業務支援ツール”TAISY”の開発や、米国・欧州の手法を取り入れたワークスペースのコミュニティ創出・運用のコンサルティングを行う。
また、2023年6月に一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(JCCO)を設立。コミュニティマネージャーの育成から、コワーキングスペース経営におけるコミュニティを活用した不動産価値向上のアドバイスまで、コミュニティに関するあらゆるサポートを行う。

仲地 翔子

沖縄セルラー電話株式会社
事業創造部 副部長

2006年に沖縄セルラーへ入社し、通信事業でショップ営業やマーケティング部門を歴任。現在は2023年より新設された事業創造部にて、地元貢献と次の成長につながる事業開発に挑戦中。地元に全力!という会社のモットーを体現すべく、社内プロジェクトでOut of Kidzaniaの開催や首里城復興応援ソング SYURI NO UTAのアーティスト支援など、様々な活動を行っている。

田中嶺吾

MIRAI-INSTITUTE株式会社
取締役

慶應義塾大学商学部卒。株式会社ガイアックス入社後、人事採用・起業家教育・CVC担当を経て、Nagatacho GRiD事業部長、経営会議メンバーに。GRiD事業の売却後、シェアオフィスMIDORI.soを運営するMIRAI-INSTITUTE株式会社に取締役として参画。人類学とビジネスの連携に関心があり、人類学者の研究補助員やYoutube番組「聞き流す、人類学。」の運営を担当。

奥畑 大介

さくらインターネット株式会社
マネージャー

和歌山県和歌山市生まれ。学生時代は将棋や麻雀など、頭脳ゲームに夢中。2007年さくらインターネット入社。データセンターの運用業務から人事での労務や採用経験を経て、現在はマネージャーとして組織マネジメントに携わる。Blooming Campでは施設全体の責任者を務め、みんながやりたいことを実現できるような場づくりに奮闘中。話を聞くこと、そして共に楽しむことが大好き。自己理解を深めるワークショップなども得意。ゆくゆくは家族で小さなカフェを開きたいという夢も。ボードゲームも大好きなので、ゲーム好きの方はぜひ話しかけてください!

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