沖縄県沖縄市。胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏で「コザ」の愛称で知られる同エリアで、全国各地からコワーキングスペースやコミュニティに関わるプレイヤーが一堂に会するイベント「FLC Fes 2025 in Koza 」が開催されました。運営するのは、有意義なコワーキングスペースを全国に広げることを目的に設立された一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会(以下「JCCO」)。

「Find the new relationship between Local economy and Coworking space(地域経済とコワーキングスペースの新たな関係性を見つける)」と題された通り、参加者それぞれが「地域×コワーキングスペース」の在り方を模索する2日間となりました。

本記事では、「インキュベーションを振り返る~アクセラレーターやVCがスペースを持つ意味~」のテーマで意見が交わされた、セッションの様子をお届けします。

それぞれの形でスタートアップを支援

テーマに興味を持った参加者が多数聴講。会場は満員に。

本セッションで登壇したゲストスピーカーは3名。1人目はフォーシーズ株式会社代表取締役CEOの豊里 健一郎氏、コザスタートアップ商店街の仕掛け人です。子どもの頃から商店街を走り回って育ち、高校からは中国へ留学。そのまま大学、就職と中国で過ごします。起業を志す中でアジアに近い沖縄に改めて魅力を感じ、戻ってきたそうです。

フォーシーズ株式会社代表取締役CEOの豊里 健一郎氏。

「当時からすでに、沖縄市はこの場所でスタートアップ支援を行っていました。その運営を私が引き継ぎ、そして地域をもっと元気にしたいと手弁当でコザスタートアップ商店街を始めたのです。商店街の1階には人が集まりやすいカフェやバーに入居してもらい、2階の空き物件にはスタートアップのオフィスが入居。スタートアップがもっと成長しやすい環境を作るために、地域と連携したファンドの立ち上げなどを模索しています」。

次に口火を切ったのは、一般社団法人スタートアップエコシステム協会代表理事の藤本 あゆみ氏。2022年に協会を立ち上げた藤本氏ですが、スタートアップ支援に関わる大きなきっかけは2007年にGoogleへ入社したことだったと話ます。

一般社団法人スタートアップエコシステム協会代表理事の藤本 あゆみ氏。

「まだGoogleが今ほど知られていない時代で、違法動画の共有サイトなんて!と言われていたYouTubeが、数年で世界のインフラになった。これだけすごい勢いで世界を変えていくのがスタートアップなんだと目の当たりにし、それを自分が『やる』か『応援する』かなら応援したいなと思って、今に至ります」。

そして3人目は株式会社ゼロワンブースター取締役、川島 健氏です。起業家支援や、地域や研究機関の事業化支援を行うゼロワンブースターは、三菱地所と連携して東京・有楽町で事業創造コミュニティ「SAAI(サイ)」を運営しています。

株式会社ゼロワンブースター取締役の川島 健氏。

「SAAIはとくに、起業して間もない方や起業前の方など、何か新しいことに挑戦しようとしている方向けのスペースです。知見のシェアやつながり作りを重視しているため、スペースの中にはバーもあります。私自身、一度会社を辞めて起業していた経験があるので、スペースの利用者目線からもお話しできると思います」。

うまくいくスペースの条件は「行く理由がある」こと

トークを進行するモデレーターは、椎名エバレット達弘氏。JETRO(日本貿易振興機構)で働いたのち、世界中を旅しながら各国の起業家やVCを紹介するYouTubeチャンネル「世界の社長チャンネル」を運営しています。

世界の社長チャンネルの椎名エバレット達弘氏。

その椎名氏が、スタートアップ支援の経験が豊富な3名に問いかけます。

「私自身、各国でいろいろなコワーキングスペースやインキュベーション施設を訪れました。起業家がたくさん集まり成功しているスペースもあれば、あまり人が集まらず『もっと場所をうまく活用できるんじゃないか』というスペースもあります。その違いというか、起業家によく使われて頼りにされるスペースの条件とは何だと思いますか?」

スタートアップエコシステム協会の藤本氏は、椎名氏の問いに対し以下のように答えました。

「『そこに行く理由があるかどうか』に尽きると思います。たとえばニューヨークのあるスペースは『ここは脱炭素の事業をする人のための場所』とテーマが決まっているんです。しかも海軍の跡地を市が買い取ってドローンを飛ばしたり自動運転のテストをしたりできるので、そりゃ集まりますよね。そこを使わなければ、面倒な手続きを踏まなければいけないので。ハード面でもソフト面でもいいのですが、やはりそこに行く理由があることは、重要なポイントです」。

「純粋に『楽しいかどうか』も大事なんじゃないでしょうか」と言うのは川島氏。

「もちろん仕事をしに行くんだけれど、そこにいる人に会いに行く意味も大きいと思うんです。『最近どう?』という雑談から『ちょっとランチ行かない?』といろんな相談をしたりして、そこに集まる人どうしが“起業家同期”のような関係になれるというか。とくに日本人はお酒を介すると打ち解けやすいですね。SAAIがうまく行っているのは、バーがある要素も大きいかもしれません」。

豊里氏は「スタートアップじゃなくても、(お店などの)スモールビジネスでもいいと思うんですよね」と話します。

「沖縄って開業率も廃業率も高いんです。つまり、ポジティブに起業する強みがあるということ。ですから飲食店開業を考える人など潜在層も取り込んで、スタートアップという選択肢があることも知ってもらう。すると『資金調達にこんな選択肢もあるんだ』と知ったうえでスタートアップとスモールビジネスのどちらかを選択してもらえます。そこでスタートアップを選んだ人たちには2階を使ってもらい、しっかりグロースさせて出口を目指したいですし、漫画家の『トキワ荘』のような場所になるのが理想ですね」。

*トキワ荘……手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫らが青春時代を過ごしたアパートで、漫画家の聖地とされる

壇上では白熱した議論が交わされました。

藤本氏は、海外のいろんなスペースを見てきた経験から「スタートアップは支援されるべき立場ではなくエコシステムを構成する1要素であるということを、スタートアップ自身が理解していることも大切です」と、起業家サイドの心構えにも言及しました。

インキュベーション施設の決定版はこれだ!

各々希望を語る登壇者たち。

スタートアップの目線からはどんなスペースが望ましいのか、椎名氏がふたたび問いかけると「いろんな人に言ってるんですが、ビル1棟ほしいです」と思い切った考えを述べたのは藤本氏。

「1階はイベントのできるオープンスペースにして、2階はシード、3階はシリーズA、4階はシリーズB……と成長するにつれオフィスが上がるようにして、自分より上の階へはアクセス権限がない。その代わり、上の階のメンバーが下に降りてきてメンタリングする。一番上に上がって卒業するときにはそのビルに投資する仕組みにすれば、サイクルができると思いませんか?」。

他の登壇者も「いいですね!」と賛同します。

「コワーキングスペースやインキュベーション施設が増えていますが、日本は海外に比べてみんな優しいんです。仲間ではありますが、もっと『自分たちが一番に成長するぞ』と刺激されるような空気があったほうがいいと思います」。

相槌を打ちながら、登壇者の発言をまとめ、バトンをつなぐ椎名氏。

川島氏は、海外スタートアップを受け入れる施設がもっと増えてほしいと考えます。

「それができているスペースって、本当にわずかですよね。うちでも英語を話せるメンバーはいるのでコミュニケーションは取れますが、もっと文化的なギャップといいますか……。やはりテンションのOSが違うのでどうしても『日本人村と一部の外国人』になってしまう。それを解消するスキルを私たちも身につけたいですし、そういうスペースが増えるといいですね」。

スタートアップという枠を越え、地域の経済界とつながりたいと考えるのは豊里氏。

「これまでスタートアップ支援に夢中になってきましたが、地域経済を元気にできてこそ、スタートアップの存在意義があるよなと思うようになりました。オールドエコノミーといわれる従来の経済界や不動産業界、飲食店などと連携して初めて、ニューインダストリーを生み出せるんじゃないかと。だから今年はこれまでとアプローチの仕方を変え、スタートアップを応援する人を増やしていきたいです」。

これを聞いて他の登壇者も「もうデベロッパーの視点ですよね」と感嘆していました。

「豊里さんのような人をどう増やせるかがポイントですね」と議論がまとめられ、政府や企業も巻き込んでやっていこう!とセッションが締めくくられました。

椎名エバレット達弘

世界の社長チャンネル

50カ国を目標に、各国スタートアップ情報発信のために、バックパッキングするYouTuber。昨年7月、JETROスタートアップ支援課を退職。JETROでは、日本発スタートアップの海外進出を支援する中で、日本の海外ビジネス情報不足を目の当たりにし、世界旅行を決意。
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCCyDFpfwJQasKo8DOK4vppg

豊里 健一郎

フォーシーズ株式会社
代表取締役 CEO

沖縄県沖縄市出身。廈門大学卒。香港日通に入社後、深圳法人でSCMシステム開発部門を統括。高校留学以降、15年の中国滞在を経て帰国後、地元沖縄市コザにて起業。2017年から沖縄市創業支援施設「Startup Lab Lagoon」の運営を行い、2022年には沖縄県全体のスタートアップ支援の中核拠点「コザスタートアップ商店街」を立ち上げた。創業支援、人材育成、コミュニティ運営等、沖縄と東アジアを繋ぐスタートアップエコシステム形成を行う。

藤本 あゆみ

一般社団法人スタートアップエコシステム協会
代表理事

大学卒業後、キャリアデザインセンター、グーグルにて法人営業に従事。2016年にat Will Workを設立。お金のデザインでPR/Marketingにキャリアチェンジをし、Plug and Play Japan株式会社でCMOとしてマーケティングとPRを統括。2022年にはスタートアップエコシステム協会を設立、代表理事に就任。東京都スタートアップ戦略フェロー、文部科学省アントレプレナーシップ推進大使、内閣府規制改革推進会議スタートアップ・投資ワーキンググループ専門委員。

川島 健

株式会社ゼロワンブースター
取締役

早稲田大学政治経済学部卒。日系医療機器メーカーにてEMEA地域の新規市場開拓、外資系医療機器メーカーにてプロダクトマーケティングに従事した後、2017年に事業創造アクセラレーター01Boosterにジョイン。Directorとして、複数のアクセラレータープログラムのマネージメント、ベンチャー投資、及び海外のアクセラレーターとの連携を推進。 クロスボーダー投資・進出を促進すべく、2018年にアジアのVC・アクセラレーターのコミュニティであるAcross Asia Allianceを創設。2020年7月にスタートアップ連携管理に特化したSaaSを提供する株式会社InnoScouterを創業。2021年10月にM&Aを通じて01Boosterグループに参画。新規事業担当取締役に就任。

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